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東京高等裁判所 平成6年(ネ)5266号 判決 1996年9月26日

控訴人(附帯被控訴人)

右代表者法務大臣

長尾立子

右指定代理人

小濱浩庸

外一〇名

被控訴人(附帯控訴人)

田代勇

田代伊津子

右両名訴訟代理人弁護士

清野春彦

味岡申宰

主文

原判決中、控訴人(附帯被控訴人)敗訴部分を取り消す。

被控訴人(附帯控訴人)らの請求をいずれも棄却する。

本件附帯控訴をいずれも棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人(附帯控訴人)らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)

主文同旨

二  被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)ら

1  本件控訴を棄却する。

2  原判決中、被控訴人ら敗訴部分を取り消す。

3  控訴人は、被控訴人田代勇に対し金三三五二万七六三二円、同田代伊津子に対し金三三五二万七六三二円及びこれらに対する平成三年一月二一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

第二  本件事案の概要は、次のとおり付加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」の一、二1に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人の当審における補充主張

1  亡勇悟郎の転倒の原因について

(一) 泥土の堆積状況

本件路肩には、泥土が堆積していたものの、一様に三センチメートルの厚さで堆積していたわけではなく、泥土は、車道外側線付近にはうっすらと存在しているだけで、主に排水機能を果たす構造になっているL字型側溝のゆるやかに傾斜した溝底部分(幅約0.50メートル)に堆積した泥土の厚さも、その傾斜の度合いに対応して、溝底の最も深い部分である自転車歩行者道縁石(以下、単に「縁石」又は「歩道の縁石」ということもある。)近くが最も厚く、約三センチメートルの厚さになっていたにすぎないのである。また、その路面状態で被害車が最大限縁石に接近して走行した場合、その走行位置は車両の構造上、縁石から車道側へ二五センチメートル以上離れた場所となる。その位置での泥土堆積厚は、理論値で1.5センチメートルから1.2センチメートルまで、実測値では1.2センチメートルから1.0センチメートルまで程度となる。

(二) そして、控訴人が実施した走行実験によれば、右の程度の泥土厚の路面では通常の走行には泥土の影響はほとんどなく、被害車のハンドル操作の自由を奪うものではない。本件事故発生後、路面等に残された被害車の走行痕跡は、本件路肩の泥土上のタイヤ痕である。本件事故発生直後に現場に臨んで右タイヤ痕を視認した警察官は、被害車がハンドルを取られてふらついたり、スリップしたような痕跡は認められなかった旨説明しており、現場を当時撮影した写真、被害車がハンドルを取られたり、スリップしたことを示す痕跡はない。縁石の擦過痕は、被害車の車体スタンド部分が縁石に接触し、転倒した際に付けられたものである。

(三) 右の事情を総合すれば、本件事故当時、亡勇悟郎は、時速約三〇キロメートルで加害車を追い越すため、本件路肩に進入し、最大厚1.5センチメートルの泥土上を進行した。その際亡勇悟郎は、ハンドル操作にわずかな抵抗を感じ、被害車がやや左右に振られることはあったが余裕のある運転ができる状態であった。しかしながら、本件事故当時、亡勇悟郎は同一方向に進行する加害車を追い越そうとして、車道から本件路肩部分に進入し、加害車と並進する状態となり、加害車が大型トレーラーであったことから圧迫感や危険性を感じて、より一層加害車との間隔をあけることに気を取られ、左側に寄りすぎた結果、縁石に左側スタンドが接触してバランスを崩し、そのために右側の加害車側に転倒したものと推認することができる。

(四) したがって、本件路肩部分、特にL字型側溝部分の溝底に泥土が堆積していたことと本件事故の発生との間に因果関係があるということはできない。

2  泥土の堆積と道路管理の瑕疵について

(一) 本件路肩部分のうち、車両の通行を予定した構造になっているのは、本件車線のすぐ外側のアスファルト舗装部分(幅0.28メートル)のみであって、残りの鉄筋コンクリート製ブロックが埋め込まれた溝底部分(幅0.50メートル)は、主に排水機能を果たす構造になっており、一時的に車道をはみ出した車両等が進入・停止することは可能な構造になっているものの、通常の状態での車両通行を予定した構造にはなっていない。したがって、特に、本件路肩部分のうち、溝底部分については、本来からアスファルト舗装部分と同様の走行性能は備えていないものであるし、その主たる機能である排水機能に主眼が置かれた管理こそがされるべきものである。

(二) そして、本件事故当時、本件路肩のうちのアスファルト舗装部分には、ほとんど泥土の堆積はなかったし、溝底部分の泥土の厚さも前記1(一)のとおりであり、堆積泥土は、被害車のハンドル操作の自由を奪うものではなく、その部分に予定された排水機能及び車両等の乗り入れ機能を損なうものではなかったし、一時的に車両通行帯からはみ出した車両等が進入・停止するという機能も、何ら損なわれていなかった。したがって、本件路肩は、それが通常有すべき安全性を欠いているということはできない。

(三) 本件事故現場は、積雪地帯であるため冬期には随時に相当量の降雪があり、積雪時には、本件路肩部分は除雪された雪の堆積場となり、また、平成三年当時の厳冬期にはスパイクタイヤやチェーンを装着した車両が多かったこともあって、いわゆる車粉が雨水や雪解け水で洗い出されるため、一月頃になると、L字型側溝の溝底部分には、堆積された積雪に包含されていた泥土が、除雪の際に除去しきれないまま、若干量堆積するようになり、そのような状況が毎年のように見られていた(積雪時に泥土を除去するのは不可能である。)。そして、右溝底部分は、降雨や融雪により路面等から流入する地表水を排水し、滞水による交通障害を防止する機能を果たす構造になっている。したがって、そこを二輪車が走行するとふらつくなどして歩道縁石に接触する危険があり、あるいは無理な操作をするとスリップの危険がある。

そうすると、このような道路を冬期に通行する自動車や車両等の運転者は、降雪地域特有の道路の状況に応じた安全な運転が特に求められ、一時的に車両通行帯から本件路肩部分にはみ出して走行したり、更に溝底部分にまで車輪を乗り入れる車両等があるとしても、その運転手には、特に溝底部分の状況が本来の車道とは違うもので、縁石と接触する恐れも存することに留意し、減速して徐行したり、一時停止するなどして、安全な運転をすることが要求される。

(四) 道路管理者としては、本件路肩部分のうち、特に溝底部分については、もともとアスファルト舗装部分と同様の走行性能は備えていないのであるし、その主たる機能である排水機能に主眼が置かれた管理こそがされるべきものであるから、一時的に車両通行帯からはみ出した車両等が安全に進入・停止するという機能が確保されるよう管理すべきであっても、この部分が常に本来の車道と同様の走行性能を発揮するように管理すべき義務までは存しない。

(五) また、道路の安全性については、運転者の運転方法や態度とは無関係に絶対的完璧な安全性を確保しなければならないものではなく、道路を利用する者の常識的な秩序ある利用方法を期待した相対的な安全性を具備していれば足りるものである。そして、糸魚川地区の二輪車の運転手は、L字型側溝内に車両を乗り入れた場合の危険性を認識しており、常識的な秩序ある利用方法として、冬期はL字型側溝内を走行しないという運転方法がとられているのである。ところが、亡勇悟郎は、特段の必要もないのにL字型側溝内に二輪車を乗り入れている。すなわち、亡勇悟郎は、先行する幅の広い大型の加害車に対し、道路交通法二八条一項違反の左側追越しを試み、日没後の雨天で周囲が暗いといった悪条件の下、加害車と縁石との間の狭隘な空間部分に進入し、更に危険を感じても停止することもないまま、安全な進路の維持ができなくなった末に、本件事故が発生したものであり、これは、常識的な秩序ある利用方法とはいえないから、この利用方法によって発生する事故を防ぐべき絶対的完璧な安全性がなかったとしてもL字型側溝部分に瑕疵があるとはいえない。

二  被控訴人らの当審における補充主張

1  亡勇悟郎の転倒の原因

(一) 本件路肩上の泥土の厚さは、実況見分調書に記載されているように、少なくとも三センチメートルあった。したがって、泥土の堆積は、原判決どおり軽微な障害ではなかった。控訴人の実施した走行実験は、実験に関与した人間が泥土が堆積していることを事前に認識し、かつ明るい状態で実施した実験の結果であり、本件事故当時の亡勇悟郎とは異なるが、それでも走行に泥土の影響を受けている。これが、本件事故のように夜間でかつ泥土の堆積を認識せずに突然に泥土へ進入した場合には、ハンドル操作や心理的余裕に与える影響は実験結果よりはるかに大きいと推測され、亡勇悟郎は、泥土の影響を顕著ないし相当に受けたものと推定される。

(二) 堆積した泥土に進入した直後から被害車はへび状のふらつき走行を始めた。そして、泥土にタイヤをとられ、ふらつきながら右側に傾斜してゆき縁石に接触する直前にスリップして更に傾斜した状態でバイクが縁石に接触したものである。縁石に印象された擦過痕からは、被害車は、縁石に傾斜状態で接触し、接触した直後に転倒したものと推測される。

(三) 本件路肩には厚さ三センチメートルもの泥土が堆積していたから、原動機付自転車のタイヤがめり込み、ハンドル操作の自由を失い、スタンドの左側部分が自転車歩行者道の縁石に接触して転倒したものと判断するのが最も自然であり、合理的である。

(四) 以上により、亡勇悟郎運転の被害車は、歩道の縁石に接触したために転倒したのではなく、堆積していた泥土にタイヤをとられてふらつきながら右側に傾斜してゆき、縁石に衝突する直前にスリップして更に傾斜した状態で被害車が縁石に接触し、その直後に右側に転倒したものである。

2  道路の瑕疵について

(一) 原動機付自転車について、本件路肩の走行を禁止する法令は全く存しない。実際の運行においても原動機付自転車が路肩を通行することが多く、本件事故発生当時のように、交通が渋滞し、停止・発進を繰り返している状況下においては、原動機付自転車が路肩上を走行し、前方の四輪自動車を追い抜いていくことはよくあることで規制もされていない、通常の走行方法であり、我々の日常頻繁に目撃するところである。したがって、道路管理者としては、車両が車道をはみ出して走行したときにおいても安全が確保されるよう管理すべき義務がある。

(二) 積雪地帯の幹線道路の特性として、降雪の有無にかかわらず車線や路肩に泥土が発生し、堆積するものであることは控訴人の自ら主張するところである。それなら降雪期こそ頻繁に清掃作業を実施すべきであるのに、平成二年一一月一三日以降本件道路(路肩を含む。)の清掃を実施せず、結果として本件泥土を堆積させ、放置して、その通常有すべき安全性を欠如させたのであるから、控訴人の管理責任は免れない。

3  過失相殺について

原判決が、本件事故に対する亡勇悟郎の過失の割合を七割と認定したのは、過酷に失し不当である。仮に過失相殺するとしても、以下の点を考慮して、その割合はせいぜい二割程度とするのが相当である。

(一) 被害車が加害車を追い抜くために本件路肩に進入したことは路肩をその設置目的と機能に適合した通常の方法で利用したものであり、加害車はほとんど本件車線いっぱいに走行しており、右側からこれを追い越すことは不可能であり、しかも低速で加害車を追い越そうとしたことをもって、亡勇悟郎の過失とすることはできない。

(二) 本件事故当時は、真っ暗で小雨が降っており、車両はワイパーを使わないと見通しの悪い状況であった。このような状況の下では、路肩に泥土が堆積しているなど予見できないことであったから、亡勇悟郎が右泥土を認識しなかったことをもって、前方注視義務を怠ったということはできない。

(三) 加害車と縁石との間隔は、被害車の進行には十分な空間であり、亡勇悟郎がことさら狭い進路を進入したというものではなく、同人の右進入行為そのものをとらえて本件事故の一因と見るのは不当である。

4  慰謝料額について

亡勇悟郎は本件事故当時満一六歳、心身ともに健全な高校一年生であり、父母の慈愛と期待を一身に集め、近隣の人々や学友、教師の信望も厚く、前途の希望に燃えた有為の少年であった。原判決が、本件事故によって無残にも生命を奪われた亡勇悟郎に対する慰謝料を一二〇〇万円としたのは低額に失し不当である。

第三  当裁判所の判断

一  本件事故の経過は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決九枚目表末行から同一二枚目表四行目までのとおりであるから、これを引用する。

1  原判決九枚目裏一行目の「一三」の次に、「二四、二五の各1、2、当審証人田中輝吉、同平賀輝男の各証言、」を加える。

2  同一〇枚目裏末行の「厚さ約三センチメートルの」を削除し、同一一枚目表五行目末尾に「本件事故の実況見分を実施した警察官が、右タイヤ痕の轍の一番深いと思われるところ一か所を計測したところ、泥土の厚さは約三センチメートルであった。」を加える。

3  同一一枚目表七行目の「厚さ」から同九行目の「部分があった。」までを「泥土が全体的に堆積していたが、一様に厚さ約三センチメートルで堆積していたのではなく、車道外側線が視認できたことや、道路には横断勾配があることからして、外側線付近はうっすらと存在している程度で、歩道縁石に向かって厚くなっていた。」と改める。

4  同一一枚目表一〇行目の「歩行車道」を「歩行者道」と訂正する。

5  同一二枚目表四行目の末尾に「なお、控訴人は、加害車のタコメーターは、整備調整不足のために、走行距離や瞬間速度が正常よりも低い値を示していると主張するが、鑑定の結果によれば、乙一(タコメーター記録紙)の示す数値は、確かに必ずしも正確なものとはいえないこと、しかし、その誤差は少数と推測できるものであることが認められるから、乙一の示す数値に依拠して被害車の事故直前の速度を推認することは不当とはいえない。」を加える。

二  亡勇悟郎の転倒の原因

1  被控訴人らは、本件路肩には、厚さ約三センチメートルの泥土が堆積していて、亡勇悟郎は、この泥土のために被害車のハンドルをとられて歩道の縁石に接触し転倒したと主張する。

2  しかしながら、前記認定事実によれば、本件路肩全体に厚さ約三センチメートルの泥土が堆積していたわけではなく、本件事故の実況見分を実施した警察官は、タイヤ痕付近の泥土の中で、一番深そうなところを選んで測定したところ、その厚さが約三センチメートルであったというのであり、本件路肩上の泥土は、車道外側線から縁石に向かって、次第に厚く堆積していて、一様な厚さではなかった。そして、証拠(丙二四、二五の各1、当審証人田中輝吉、同平賀輝男の各証言)によれば、実況見分を行った警察官は、本件事故直後の状況として、車道外側線は、スパイクタイヤなどで多少削られていたと思うが、確認できたこと、それは、一部は見えにくくなっていたが、見えないという状態ではなかったこと、路肩に残されたタイヤ痕は、縁石に向かってまっすぐ印象されていて、そこにふらついた様子とかスリップした形跡は認められなかったことが認められる。

3 右によれば、被害車が、本件路肩上の泥土のために、ハンドルをとられたり、車輪をスリップしたとはにわかに認めがたく、かえって、被害車が、加害車を追い越そうとしたときは、歩道の縁石と加害車との間の間隔がわずか1.3メートルしかなく、しかも、加害車は、大型のトレーラーであるから、被害車が衝突の危険を感じて、心理的になるべく離れて並進ないし追越しをしようとすることは十分考えられること(丙二八の実験結果もこれを裏付けている。)、本件事故現場は当時、既に暗くて、照明も十分でなかったこと、前記タイヤ痕はまっすぐ歩道の縁石に向かって印象されていることを勘案すれば、亡勇悟郎は、加害車を追い越す際に、加害車との間隔を取ることに気をとられ、縁石に十分注意を払わず、そのために縁石に接触して転倒した可能性も強く、結局、被害車が、本件路肩上の泥土のためにハンドルをとられて歩道の縁石に接触して転倒したことを認めるに足りないというべきである。したがって、被控訴人らの主張する泥土の堆積と本件事故の発生との間に法律上の因果関係があるとは認められない。

4  なお、甲三(実況見分調書)には、事故を目撃した後続車の運転手田代時夫が実況見分をした警察官に、路肩を走行していた被害車が、ふらつくのを目撃したことを指示したことが記載されているが、原審証人田代時夫は、被害車が、ふらついたことは目撃していないと証言しており、甲三の記載には疑問がある上、甲三によれば、田代時夫が、被害車がふらついたと指示した地点は、被害車が転倒した地点から約七メートル手前の地点であるところ、前記認定事実によれば、被害車は歩道の縁石に衝突してから約6.2メートル進行して転倒しているから、ふらついたとされる地点は縁石に衝突した地点付近ということになり、したがって、これが泥土のためにふらついているとは必ずしもいえず、この記載によっては、前記認定を左右しないというべきである。また、被控訴人らは、縁石の擦過痕から、被害車は、泥土のために傾斜した状態で縁石に接触した旨主張するが、これを裏付けるに足りる証拠は認めがたい上、丙二四、二五の各1、二六に照らしても右主張は採用できない。

三  控訴人の道路管理の瑕疵の有無について

1  右二で説示したとおり、本件路肩上の泥土の堆積と本件事故の発生との間には因果関係があるとは認めがたいのであるが、本件路肩上に泥土が堆積していたことは前記認定のとおりであり、これが被害車の走行に何らかの影響を与えた可能性もないわけではないので、本件事故現場付近における泥土の堆積が道路管理の瑕疵に該当するかどうかについて更に検討する。

2  国家賠償法二条一項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、その瑕疵があったとみられるかどうかは、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきである(最高裁昭和四五年八月二〇日判決・民集二四巻九号一二六八頁、同昭和五三年七月四日判決・民集三二巻五号八〇九頁参照)ところ、道路の路肩は、「道路の主要構造部を保護し、又は車道の効用を保つために」設けられるものであり(道路構造令二条一〇号参照)、右の「車道の効用を保つため」には、自動車の走行速度を確保するための余裕幅をとることによって、車道の効用を保つという趣旨も含まれるものと解するのが相当である。そして、本件路肩においては、車両が路肩にはみ出して走行することは禁止されていないことも考慮すると、道路管理者は、本件路肩部分を車両が通行することも考慮して、本件道路の管理を行うべき義務があるというべきである。

3  しかしながら、路肩の本来の目的が前記のとおりである上、前記認定事実によれば、幅0.78メートルの本件路肩部分には、排水施設を兼用した幅員0.5メートルのL字型側溝があり(なお、丙一、一二、二一、弁論の全趣旨によれば、右L字型側溝部分はコンクリート製ブロックであり、本件路肩のうち本件車線側の幅0.28メートルの部分のみが本件車線と同じアスファルト舗装となっていることが認められる。)、本件路肩は、車道外側線から縁石と接する部分にかけて穏やかな傾斜をなしていて、道路上の雨水や泥土等がL字型側溝に流入しやすくなっている。しかも、本件事故現場付近は、北陸地方の降雪地帯であり、冬期に降積雪があり、これらが、路肩に寄せられて堆積したり、また、自動車が、スパイクタイヤやチェーンを装着して走行するために発生する粉塵等もかなり出て、これらが雨水等のために泥土等として、路肩部分に集って堆積することは避けられないところである。したがって、冬期に本件事故現場付近を走行する車両の運転者は、このような状況も念頭において、泥土の少ない車道部分をなるべく走行すべきであり、仮に路肩部分を走行する必要がある場合には、堆積した雪や泥土等に十分注意をした上で、走行すべきである。

4  したがって、路肩上に泥土が堆積していたことから当然に道路の管理に瑕疵があるというべきではなく、堆積した泥土の厚さの程度や堆積した泥土が車両の走行に与える影響、道路の管理体制の実情、交通状況等をも考慮して、道路の管理に瑕疵があるかどうかについて判断すべきである。そして、本件事故現場を管理していた控訴人の国道維持出張所において、平成二年一一月の本件路肩の清掃後も、定期的に道路を巡回して、道路上の落下物の回収等を行い、道路の異常の有無を把握していたことは前記認定のとおりであり、証拠(丙一五、一六)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故現場付近を管理する控訴人の右国道維持出張所では、一月、二月は降積雪が多いため、車道上に降った雪を除雪車により排除して路肩に堆積させることなどして、車道における車両の安全な通行を確保することを中心に管理していることが認められる。また、本件路肩上の泥土の堆積状況は前記認定のとおりであるところ、証拠(丙二八)及び弁論の全趣旨によれば、本件路肩部分の泥土の堆積状況に比較的近いと考えられる泥土の堆積状況では、二輪車の通常の走行には余り影響がないことが認められるから、本件路肩のうちでも、あまり泥土が堆積していない車道外側線付近(この部分は、路肩の効用のうち、特に、自動車の走行速度を確保するための余裕幅をとることによって、車道の効用を保つという趣旨を主に担うことになる。)では、二輪車の走行に、より影響がないことが推認される。これに本件事故が、前記認定のとおり、追越し禁止区域で、大型トレーラーを左側から追い越すために路肩を走行して縁石に接触し転倒したことにより発生していること(この追越し方法は道路交通法二八条一項に違反する。)をも勘案すると、本件事故当時、本件路肩部分に泥土が堆積していたとしても、自動二輪車の通常の直進走行を前提とするかぎり、前記認定の厚さの泥土の存在をもって、道路の路肩部分が通常有すべき安全性を欠くに至っているとまでは未だ認めがたく、道路の管理に瑕疵があったとはいえないというべきである。よって、この点の被控訴人らの主張も採用できない。

四  結論

以上によれば、被控訴人らの控訴人に対する請求はいずれも理由がないから、被控訴人らの控訴人らに対する請求を一部認容した原判決を取り消し、被控訴人らの控訴人に対する請求を棄却し、附帯控訴は理由がないから棄却し、訴訟費用について、民事訴訟法九六条、九五条、八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岩佐善巳 裁判官山﨑健二 裁判官彦坂孝孔)

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